血縁とは?家族とは?・・・我が子に薦めた本『祈祷師の娘』

美しい装丁に惹かれて

 今回ご紹介するのは、『祈祷師の娘』

祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)

祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)

美しい装丁に惹かれて手に取ったと記憶しております。
ページを開いたとたんに引き込まれ、読み終えたのち自宅用に購入しました。

”霊を感じたり見たりできる”・・そんな家系の、家族の物語です。
その特殊性というものが、非常につつましやかな、当たり前の生活の中で展開していることが魅力です。
「血縁」、「家族」がテーマになっており、まさしくそのことで悩む「春永」という少女の一人称で、物語は語られます。

おとうさん、おかあさん、お姉さんと暮らす春永ですが、彼女だけは彼らの血縁の外側にいるのです。
そもそも、ここで「おとうさん」と呼ぶ人と「おかあさん」と呼ぶ人は兄妹です。

春永の実の父親は早くに他界しており、「おとうさん」は、母親の再婚相手。
母親は、何らかの理由によりこの再婚相手との生活を続けず、幼い春永を置いて出ております。

「おかあさん」は結婚したものの、母親の稼業である「祈祷師」を継げ、という神さまからの「おしらし」がいよいよ激しくせまり、嫁ぎ先の家族からは気味悪がられて、そこでの暮らしを続けることができませんでした。
「おかあさん」は、我が子「和花」を連れて実家にもどり、「祈祷師」となったのです。

毎朝の行

 「おとうさん」にもその力はありましたが、「おしらし」は妹である「おかあさん」にやってきました。
祈祷師である妹の生活を支えるために、「お父さん」は農家で収入を支え、ご飯を作るなどのハウスキーパー役を担います。
そうしながらも、毎朝冷水をかぶる修行は続けるのです。
身体をこわし丈夫でなくなった「お母さん」はその修行に耐えられなくなっておりました。
行が満足にできなくなった「お母さん」が祓いきれない霊に出会ったとき、霊のさわりを受けたときのために、ハウスキーパーである立場ではあっても、毎朝の水かぶりのは怠らない「おとうさん」・・・常に控え目、寡黙でありながら芯のある魅力的な人物です。

 そしてそのに付き合う春永。
自分がこのような修行をしたところで何の「力」も授からないことを知りながら、春永は毎朝水をかぶるのです。
春永にとって、これが自分が家族とつながっていると確かめられる唯一の手立てだからです。
一方姉の和花は、きままな現代っ子然として生きており、そんな厳しい修行など見向きもせず、毎朝ばたばたと台所に降りてきては慌ててご飯をかきこみ、学校へと向かう屈託のない少女です。

でも、「その力」は十分に持っている。
「霊をしょってしまった級友の除霊をしてやった。」
と朝の食卓で話している和花。

「あんたそんなことしたの」
あかあさんがおどろきのあまり、話をさえぎって言った。
「あんた行もしねえで見様見真似でそんなことして・・・・祓うっていうのはね、すごくあぶねえことなんだよ。祓ったものがぜんぶこっちかぶさってきちゃうかもしれねえんだから。行ってのはそのための勉強なんだよ。わかってんだろ。あんたほんとに、行もしねえでそんなあぶないこと・・・・」

おかあさんはおとうさんをふりかえった。おとうさんは和花ちゃんを見ていた。わたしは和花ちゃんから金魚の水槽に目をうつした。

ここの描写!!
春永の、この家族の中にあって感じる孤独がありありとみてとれます。

金魚

 春永が視線を移した金魚。
彼女にとって、顔も忘れてしまった実の母親ですが、その人とお祭りに行き、金魚すくいですくい上げた金魚である・・その記憶だけが確かな春永は、この金魚を大事に育ててきました。
手の平サイズの大きさまで育てたものの、水槽はそのままで、金魚は自分で向きを変えることもできず生きています。

母親との思い出の金魚ではありますが、この金魚は春永を投影している存在でもあるようです。
狭い世界で、自分で向きも変えられずに生きる金魚。
環境に抗うことなく生きる金魚。
ある日その金魚はうろこをぱらぱらと落とし始めます。
このあたりから物語は加速していきます。

おしらし

 その頃、姉の和花も体調を壊します。
「おしらし」が来たのです。
食べられず、眠れず、身体の苦痛にさいなまされる日々の末・・・。

おかあさんは和花ちゃんの頭を数珠を持った手でおさえつけた。いつのまにか、おとうさんはその足許でお題目を上げていた。
「あんたがみんな助ける。」
おかあさんはくりかえした。でも和花ちゃんはその手を逃れて祭壇の方に転がった。
わたしはだれにも気づかれないうちに部屋にもどった。
とうとう和花ちゃんは、神さまの声をきいた。

いくら水をかぶっても、自分にが備わらないことは、はなから分かっていた「春永」でしたが、神が「和花」を選んだ事実を目にし、とうとうせまい水槽から飛び出します。

和花ちゃんは、今夜、祈祷師になる。祈祷師の娘に生まれ、祈祷師の家に育ち、祈祷師になることを望んで、祈祷師になる。体の弱ったおかあさんにかわって、立派な祈祷師になる。

春永は「血縁」で結ばれる家族の外側にいる自分を、逃れようなく知ることとなりました。
翌早朝、家を出る春永・・・実のおかあさんが住む住所を尋ねてゆくのです。
そこで、彼女が見たもの、聞いたこと、知ったこと。
春永の戻るところはいったいどこなのか?
それをここで語ることはやめておきましょう。

私がこの結末に、おおいに満足していることは、お伝えしておきましょう。

*   *   *

先日パソコンの前に置かれたこの本を見て娘が
「あら!!懐かしい。」
と声を漏らしました。