北町貫多のミニマム生活

 西村賢太氏の本について書こうと下書きを進めておりますが、改めて読み直している『苦役列車』の中で、ちよっと愉快な記述に出くわしたのでこちらを先に投稿‼️

 先のブログで、佐々木典士氏の説くミニマリズムについて書きました。自分に必要なものを極限まで見定め、少ないもので暮らすその生活は、清々しく、迷いもなく、軽やかで、幸せだということ。
 そして引っ越しなんて、数時間で済むのだそうです。
 その本は、全くもってミニマリストではない私にも清々しい風を届けてくれました。
kyokoippoppo.hatenablog.com



 それを先のブログに書いて投稿しました。
とはいえ私の生活は、雑多な物有り、迷い有り、混乱有り、汚れ有り、なんといいますか、もちょっと生々しいわけです。

 私が図書館で求める本は、整った生活のための指南書であったり、間違いのない家計の指南書であったりする一方、そのような暮らしと程遠い様子を描写した本たちにも、大いに惹き付けられるのです。

 そのような本たちを、このブログで紹介していこうと決めていました。

で、手に取ったのが、西村賢太氏の
芝公園六角堂跡
それを読み終わり、現在改めて読み直しているのが、『苦役列車』です。

苦役列車 (新潮文庫)

苦役列車 (新潮文庫)


 西村氏が書くのは私小説ですので、登場人物する「北町貫多」は彼と重なる人物です。

 その貫多は度重なる家賃滞納の末、住んでいる場所を追われます。友人に借りた高々五万円で、彼は次の入居先を見つけ引っ越すのです。

で、その日は定時に(仕事を)上がれたのを幸い、帰路の浜松町辺で日下部からお金を受け取った貫多は、早速その足で当たりをつけていた板橋へと向かったのだが、半ば閉店しかけていた駅前の不動産屋に遮二無二飛び込んでみると、難なく三畳一間、一万円きっかりの二階部屋と云うのを押さえることが叶う。すぐと契約書を作成してもらったが、平生の日払い仕事の為、印鑑だけは常に携行していたのも、この拙速な事の運びに結句の一助となり得たのである。
 彼は翌日の夜に、寝具たるタオルケットとトランジスタラジオ、それに上下の着替えを詰めた三つの紙袋だけを持って今後分割払いでの支払いの債務を負った飯田橋の宿を後にしてきたが・・・・_

             『苦役列車』より

 この荷物の少なさ、求める宿の狭さがミニマリストの志向とあまりに似ていてちょっとうけました。

 貫多にしてみれば、それは致し方ない結果、ままならない現実でしかないのに・・・ミニマリストの手にする幸福感とも、清潔感ともかけ離れた生活であるのに・・・何だかスタイルだけが酷似していて・・・
面白味を感じ印象に残りました。


 次も、北町貫多君ネタで書くよ。