セメル島もここも、もう冬

 今週のお題
お題は「読書の秋」ですが、北緯44度のこの地はもう冬なのです。

 毎晩何かしらの本を読んでから眠りにつきますが、昼間のうちに図書館で借りていたた本を読み終わってしまいました。
今晩は何を読もうかしら?と考えて・・・・・決めました。
ゲド戦記外伝』
その中に収められている『湿原で』。

ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝 (ソフトカバー版)

ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝 (ソフトカバー版)

 今まで何回読み返したでしょう。
10回は読んでいます。時々読みたくなるのです。
ストーリーは分かっています。
それでも読みたくなるのは、ストーリーを求めているわけではないからなのでしょう。
そう、文章が良いのです。言葉を味わうのです。
何度も何度も・・・・

 今晩も久々にこの世界に舞い戻り味わいました。
物語の始まり、舞台となるセメル島も初冬を迎えています。

 早ばやと夜のとばりがおりようとしていた冬のある日、ひとりの旅人が風の吹きぬける十字路に立った。

 牛たちがつけたあるかなしかの十字路で旅人は道を見定めようとします。村の方へと。
しかし、どう間違えたのかここから村にはつながっていないようなのです。
靴底はとうにすりきれて湿原の水が容赦なく入り込み、足は冷たさを通り越して痛みを感じておりました。

 何者かわからないこの男。あまりに淋しい風景の中で凍える男。
読者である私は、この男に暖かな一部屋を与えてやりたくなるのです。

 そう、読み進めるとわかります。
この男は道を間違えてはいなかったことに。
メグミが暮らす小屋の前にたどりつくのですから。

*  *  *  *  *
 ゲドは物語の後半に登場します。

「タカ」と名乗って。
ゲドは心眼に映る、「頂きがふっとんだ、円錐形の大きな山と、そのすそ野の南に向かってのびる長い緑の土地」をたよりに、セメル島までやって来たのです。イリオスを追って。
泊まるところはないか?訪ねると村人は
「来るもの拒まずのメグミ」のところを教えます。
そして
「ひとつのかごによそ者ばかり」
と言うのでした。
こうして、もう一人のよそ者であるゲドも、メグミの家の戸口に立つのです。

 日々の日常を淡々と暮らしていたメグミでしたが、先立った自分の夫とも、飲んだくれのどうしょうもない弟とも全く違う二人の男に出会うことになったのです。そして
「よその男というのは、みんなこんな風なのかしら?」
と思います。
自分の身の回りの始末がきちんとできる逗留者の男「オタク」(イリオス)と、尋ねてきたわずかの合間に彼女の仕事に的確な手助けをした「タカ」。

 タカはメグミに物語を聞かせます。
繕いものをひざにおいて腰かけたメグミでしたが、その手は一針も仕事を進めませんでした。
ランプの炎が消え、薪の炎だけが揺らめく頃、メグミは目の前の人物が誰であり、ここで暮らし始めた動物の治療師である男、病み疲れてとなりの部屋で休んでいる男の来し方を知るのです。

 男とゲドの対面場面を読むと心が震えます。
目はその文章に引き寄せられ留まり、涙がでます。
大きく一息・・・・。


 メグミの元に残るイリオスと、イリオスへ寄せる尊厳の思いと安心を携えてロークへ戻るゲド。
物語はここで終わります。

 多くの教訓を引き出すことが可能な物語ですが、それはできればむき出しにせず、物語のなかに密やかにしのばせておきたいのです。



今週のお題の項目で書いたのですが、これでよいのかな?