全精力をかたむけて‥『玻璃を拾う』

 『八月の銀の雪』に収められている5編の作品。

それらをひとつずつ記事にして残すことにしました。
今回紹介するのは、4つ目の物語『玻璃を拾う』です。

ガラス細工のアクセサリー

 自分が気に入った写真を時折SNSに投稿する…瞳子がやっていたのはその程度のものでした。
友達がお義理でイイネをくれる位の反応。
コメントなどはなから期待していませんでしたから、気にもしておらず、寄せられていたコメントの存在に気づいたとき、すでにそれは3度目のものとなっていたのでした。
〈休眠胞子〉と名乗る人物からのメッセージ。
それは、心躍るようなものではなく、不可解で気味の悪い内容でした。


最後通牒です。これ以上無視し続けるということであれば、法的手段をとります。〉

いったい私が何をした?
〈休眠胞子〉瞳子の投稿した一枚の写真が著作権侵害に当たると主張しているのでした。
それは、美しく並べられた薄いガラス片のような写真で、瞳子はその画像を、

「ガラス細工?こういうアクセサリーほしい」

と書き添え投稿したのでした。

確かに自分がしたことであるのに、それがどこから引っぱってきた写真か?記憶は無く、更には、投稿時以降にスマホを変えその際旧データも残さなかったため、写真の出所を確かめようもありませんでした。
瞳子は記憶の無いことを正直に伝え、素直にわび、謝罪の返信を送りましたが、相手は、自分が被った迷惑を主張し、写真の出所をはっきりさせろ!とつのるのでした。
〈休眠胞子〉は、自分の作品を勝手にSNSに流したことに加え、何よりそれを、「ガラス細工」と呼ばわっだことに対して激しく怒っていることが伺えました。

カフェのテーブルの向いに座る友人奈津を相手に、瞳子は言い放ちます。

「〈ガラス細工などではない〉って、知らんわそんなこと。どんな高尚なゲージュツか知らんけど、人に見てもらうために作ったんちゃうの?偉そうに、何様のつもり?」

〈休眠胞子〉さん?何者やろね?

奈津

「知らんわ。名前からしてオタクくさい。ほんま気色悪いわ」

こんな風にして物語が始まります。

全精力を傾けて

さてさて・・・
『八月の銀の雪』
では、必ず人と人の出会いがあります。
推測可能ですよね!
そうです。
瞳子〈休眠胞子〉が出会うのです。

瞳子が投稿した写真の出所についてはここでは書きません。
ストーリーの細かなことも書きません。
大事なことは、瞳子〈休眠胞子〉こと野中が出会うということ。
そして、景色が変わっていくということ。

 瞳子は、精巧なガラス細工だと思ったものが、実は微細な生物~珪藻の一部であることを知るのでした。

珪藻は海でも川でも池でもどこにでもいるらしい。
何万という種があって形態も様々。
ほぼ同じサイズのガラスの殻が二つ合わさるようにあって、中に細胞が入っている。
珪藻は光合成をするので、ガラスの体(殻)がふさわしい。
そしてその殻はとても美しい。


一辺が1〜2センチのガラス板の上に薄く広がる白い粉。
これが珪藻だと教えられ、
え!こんなに小さいのですか!?
と、声をあげた瞳子
野中は、
「もう少し声を抑えて」
と注意します。息で簡単に飛んでいく。

珪藻の多くは、大きさ0.1ミリもない。これはその殻だけを集めたものなんです。海や川で採ってきたら、薬品で洗ってガラスの殻だけを集めたものなんです。それを顕微鏡で見ながら、壊れていないものを探し、先の細い道具で一つずつ拾い上げ、こうして種類ごとに選り分けていく

そして、それを美しく並べる作業は、もう、
「全精力」を傾けて行うのだ。
と語るのでした。

愚直に、あきらめずに、ひたすらコツコツ

まつ毛を使い、拾いあげ並べていくというのです。

瞳子は、こうして野中を知っていきます。
と共に瞳子自身も、ありのままの姿で彼と向き合うようになるのです。

珪藻アートの世界

 さて、この物語は日本における「珪藻アート」の第一人者、奥修氏による写真集を参考にして構想されたそうです。
作品の製作方法、珪藻の採取方法の記述も、奥氏の著作に基づいて書かれたとのこと。

私はまず、
珪藻土について検索をかけてみました。以下Wikipediaからの抜粋です。

珪藻土(けいそうど、diatomite、diatomaceous earth)は、藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積物(堆積岩)である。ダイアトマイトともいう。珪藻の殻は二酸化ケイ素(SiO2)でできており、珪藻土もこれを主成分とする。
珪藻が海や湖沼などで大量に増殖し死滅すると、その死骸は水底に沈殿する。死骸の中の有機物の部分は徐々に分解されていき、最終的には二酸化ケイ素を主成分とする殻のみが残る。このようにしてできた珪藻の化石からなる岩石が珪藻土である。多くの場合白亜紀以降の地層から産出される。

珪藻といえば、珪藻マットくらいしか思い浮かばない私でしたが、調べてみますと、様々に利用されているようです。

●七輪の原料として。
●太平洋戦争中には、ビスケット及び乾パンやキャラメル等、菓子・食品類の増量剤として使われた。
アイヌ民族珪藻土を「チ・エ・トイ」(我ら・食べる・土)と呼び、少量を汁物のとろみ付けに使ったり、山菜を和えたりして食べた。
●日本人も江戸時代、飢饉の苦しさからこれを食べたという記録も
●セライト(Celite®)は炭酸ナトリウムとともに焼成した珪藻土
●生ビールの製法の一種として珪藻土を使用。
●乾燥剤として利用。調味料の吸湿剤、風呂マット、建築物内装の調湿建材など。
●トーストスチーマーの原料。



そんな実用的な珪藻を、息を飲むほど美しい芸術品にした奥氏の仕事をご覧下さい。

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次回はいよいよ最後の作品です。
とても重いテーマです。
気合を入れて記事にしますよ!