異世界へのいざない・・③ 夏・・・異界から

夏の物語

 作品のムードが、全く違う『思い出のマーニー』と『異人たちとの夏』を、抱き合わせるようにして書いてみようという試みです。
DVDで『思い出のマーニー』を観たその直後に、『異人たちとの夏』が観たくてたまらなくなり、DVDを手に入れ、こちらも観賞したのでした。
二つの世界が私の心に住みついてしまったので、記事にしてみる・・・・こういうことです。
思い出のマーニー』の原作と映画、『異人たちとの夏』の原作と映画・・・4つのことがらが混じり合い、いったりきたりする記事となります。
カテゴリは新たには設けず、『読書』と『不思議なこと』に収めます。

タイトルにあるように、二つの作品とも夏の物語です。


思い出のマーニーでは、七夕祭りの場面が出てきますね。
作品の舞台とされる北海道の七夕祭りは、8月7日に行われます。
その後一週間でお盆です。
杏奈はそこで霊的な存在である「マーニー」と出会います。
とはいえ、映画の中にお盆を連想させる要素はみあたりません。
ただ日本人であり、すっかり北海道の暮らしに馴染んだ私は、七夕からお盆の流れはひと続きであり、勝手に結びついてしまうのですよ。
kyokoippoppo.hatenablog.com


 原作の『思い出のマーニー』にも、もちろんお盆的な要素はありません。
イギリスには日本のお盆のような風習や考え方はないそうです。
アンナのひと夏の体験として描かれております。

『異人たちの夏』の方は、はっきりくっきりお盆のできごとです。
お盆で人気の消えた東京の、本願寺前の道で、父親と英雄はキャッチボールをするのです。
父親は英雄が10歳のときに亡くなっていますので、その父親は、息子英雄よりずっと年が若い。

夢か幻か?幽霊か?

 英雄にしても、この二人をいきなり死んだ父母とは思いませんでした。
父に似て母に似ている人たちとの最初の交流のあと、酔っ払いの幻覚だったのかと、まずは思うわけです。
幻覚でないのなら・・・・
たまたま、父母に似ている二人の男女が夫婦として暮らして、たまたま出会って親切にしてくれた?
いや、
または、自分の一時的な精神障害か?
離婚の爪痕が、意外な形で残っているのかも知れない。
自分の欲する幻想を自分の脳内に作り出したのか?

動画は、異人たちとの初めての交流場面です。

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自分が精神障害を起こすような弱さを持っていたと認めるのは、気持ちのいいことではなかったが、今のところ、それが一番常識的な判断ではないだろうか?

英雄は昼間、再びそこを訪れようとします。

地下鉄の階段をあがって路上へ出ると、晴れた真夏の日射しが、薄汚れた街を、いためつけるように照りつけていた。

短い文章が、夏の景色をありありと伝えています。

英雄はこの訪問によって、甘美な一夜の体験が、幻滅へと変わる怖れを抱きながらも、そこへ向かわずにはおられませんでした。
得体の知れない沼のような場所へ向かうのだという思いを、「いや、ご馳走になったからにはお礼をするまでだ」という常識でコーティングして、英雄はそこへ向かうのです。

 そこには、母としか思えない女性がいて、夫は留守でした。

お母さんなのか?

いや、ひとりの若く美しい女性なのかもしれない。

であれば、夫の留守中に上がり込みビールを飲むなんて不謹慎だ。
英雄は腰を上げます。

「今更」と私はいった。やはり聞くべきだった。「変なことを聞くようだけど」
「なに?」
「苗字知らないんです。表札ないでしょう」
「なにいってるの。原田に決っているじゃない」
女はこともなげに、私の姓をいって笑った。
「暑いからぼけたんじゃないの?親の苗字を聞く子供が何処にいるのさ」
大きなハンマーがふり上げられ、避けようもなく頭に落ちてくるような、手のほどこしようがない瞬間があった。それからそのハンマーは私を一撃した。

彼らは霊界からやってきて、現在に住み着き、息子との交流を始めたということなのでしょうか?

  *  *  *

 杏奈も、湿っ地の向こうの屋敷に住んでいるという「マーニー」と出会います。
実は彼女もこの世の人ではありません。
しかしながら、杏奈の記憶のもっとも深いところに住んでいる人でもあるのです。


記憶の底にあるマーニーを少女として甦らせ、杏奈自身が自分の傷を手当てをし、快復を果たしたと考えることは可能です。
だからこそのタイトル、『思い出のマーニー』であると・・・・。
英雄が、これは自分の脳内で作り上げた幻想なのでは?
と分析したように、杏奈の体験は杏奈の中で進行したと考えることも不自然ではありません。

しかし、私は、英雄が会った人がおとうさん おかあさんであったように・・・・
杏奈は霊的な存在であるマーニーと確かに会った・・
として物語を味わいました。

マーニーは、杏奈の頭の中ではなく、杏奈の目の前に現れたのです。
おとうさんとおかあさんは、英雄の頭の中ではなく、英雄の目の前に現れたのです。
異界への通路を手に入れた人たちの物語なのです。