疑心暗鬼の家族ドライブ

新着本の書棚から 

 楽しく読み終えた1冊の本を図書館に返却せずに手元に置いてあるには、理由があります。
この本について記事に残しておきたいと考えたからです。
タイトルは、
家族解散まで千キロメートル』。

新着本の棚にて目に入り、何の気無しに借りてきたものです。
で…、
面白かったのです。

それで満足してしまってもよかったのですが、それについて記事に残せないかな?と思ってしまった私。
でも、記事を読んで下さる方に興味を持ってもらえるようなものになるかしら?
なかなか難しかもしれません。
この物語はミステリー的な要素が含まれておりますのでね、ネタバレは厳禁です。
そこを避けつつ綴る読書記事。

著者の朝倉秋成氏は、ミステリや推理小説のジャンルでお書きになる方のようですね。
その手の作品に手を伸ばすことが、まずない私ですので、普段と違う楽しみ方を味わえたことは確かです。
しかし、予想外の展開に「何で?」「なになに!」と反応する面白さだけなら、きっと記事に残そうとは思わなかったでしょうね。

家族の物語であるというのが、私にとっては、魅力だったんだな。
それぞれの登場人物の視点で家族が語られていてね、それが良かったんだな。

家族によって

 家族…皆さんはどのような家族をお持ちでしょうか?
どのような親の元、どのように育ち、その結果どのような「ご自分」になったのでしょうか?

 山梨県に建つ推定築50年以上の古屋。
父母は三人の子どもに恵まれ、
彼らはそこに暮らしておりました。
母親は、家族が離れ離れになることなく共に居たいという願望を強く持っています。
しかし、長男惣太郎は大学生になると同時にさっさとこの家を後にしました。
早くから家を出たかった惣太郎は、大変な努力の末早稲田大学への入学を果たし、仕送りは最低限でいい!ときっぱり伝えて、渋る母親を説得し、この家からの脱出を果たしました。
彼の旅立ち前夜の、エピソードがやたらと身にしみました。
最後の晩ごはんくらいはご馳走で!ということで用意されたのがすき焼きでした。ところが、

台所からやってきた牛肉は、残念ながら門出の席に相応しい量ではなかった。
「いやこの量って、戦時中かよ」

ホットプレートに蔑みの目を向けながら惣太郎が放った言葉が
「俺、信じられないほどの金持ちになるから」
でした。

きっと・・・・このお肉だって母親が用意できた精一杯だったのだろうな
は、どんな気持ちになったのだろうか?
どんな表情で食卓を見ていたのだろうか?
私の思いは自然とに寄り添うのでした。

さて、この席でこのように豪語した聡太郎は、その後結婚し別の拠点にて根を下ろしています。
勤めていた大手企業を辞めて独立起業した後は金遣いの荒さに拍車がかっている、そんな人物です。

長女あすな・・・・やりたい事は親に懇願して全てやらせてもらってきたパワフルな女性です。

書道から現在の舞台美術の仕事に至るまで、彼女は一度だって手を抜くことはなかった。真剣に自分の人生と向き合っているからこそ、次から次へと自身のステージを変化させてきた。

彼女は、仕事場で寝泊まりしていると言い外泊を続けていました。
でも本当か?実は交際している相手がいるのだろう、彼女の外泊の理由はそれだろう・・・そんな家族の憶測を裏切ることなく、彼女も仕事場の同僚と婚約を交わし、家を出る算段を整えたのでした。

 次男周(めぐる)は、その姉をこだわりの塊のような人物と見なしており
自分には理解できない人種なのだと捉えています。
彼は、地元市役所の公務員。
一般市民的な感覚を持ち合わせている人物として物語に登場し、読者の感覚は彼のものと自然と重なってゆくのではないでしょうか?
兄はとっくに家を出て暮らしており、姉もこの家を出ようとている。
母親はこの家で共に暮らす子どもを強く求めている。
人が良く、主張も穏やかである周が、家を出るタイミングを逃してしまいそうなれど、そんな彼にも愛する女性がおり、世帯を持つ未来が近いのです。
三人の子ども達が自分のそばから離れてしまうという危機感をもつ母親。
夫はほとんど働かず、ふらりと何処かへ行ってしまっては長らく帰宅しないのですから、実質一人暮らしを強いられることになってしまう。
母は折に触れ、周に結婚後の同居を持ちかけるのです。

咲穂(周の婚約者)に山梨に来てもらう。そして父と母と、四人で暮らす。
勘弁してほしい。僕はこの世界の誰よりも、父のことが嫌いなのに。僕は人類の中で最も尊敬できない人間が父であると思っているのに。誰よりも父のことを反面教師として生きてきたのに。

箱の中身

 そんなわけで、結局老朽化した家屋を解体し、家族も解散しようとようやく話が決まりました。
「絶対に壊れない家族を一緒に作ろうね」
結婚式の当日、夫に向かいそう言った薫の夢は霧散するしかなさそうです。
物語は家の解体三日前である、ある年の元旦から始まります。

引っ越し準備作業を手伝うため、あすなの婚約者賢人がやってきて、八百万円もするスポーツカーに妻を乗せ、惣太郎もやってきます。
父親はここでも不在。

その作業の途中、倉庫の中に得体の知れない箱を発見するのです。
おそるおそる蓋を持ち上げると、中から神仏像のようなものが姿を現しました。
いったい、いつ、誰が、何のために?
一気に吹き出る疑問の嵐。
しかし誰にも、何も、思い当たりません。
となると・・真相を知るのは唯一不在である父親か?
混乱する家族に更なる打撃が襲いかかります。
驚くべきテレビのニュース映像に接したのです。
「青森の神社から、御神体が何者かによって盗み出された。」

何も分からないながらも、これはどうにかしなければならない事態。


ここから始まる珍道中。

この渦に巻きこまれるのは面白かった。

家族の物語

 家族の物語ってとても面白い。ノンフィクションも、フィクションも・・・。
一人として同じ人間がいないということは、その組み合わせで作られる家族の形も千差万別なのです。

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