多一氏若かりし頃の作品
2006年、佐呂間図書館で行われた読書会に参加した時の思い出です。
当時私は、紙媒体のパーソナル通信『いっぽいっぽ通信』というものを書いておりました。
書いてはコピーし、知人友人に、無料で発送していたのです。
(鬱陶しいなあと思いつつも、断りきれずにいた方もおられたかもしれません。)
加藤多一さんも読者のお一人、度々感想を伝えて下さり、私の活動を励まして下さいました。
今回の記事は、当時の通信を参考にして書きました。
話を戻しましょう。
佐呂間図書館での読書会のこと。
多一さんの小品、『ふぶきだ走れ』に収められている『雪がふる』が課題図書になっておりました。
あらすじは以下のとおり。
この作品は、多一さんが若かったころ、札幌でサラリーマンをしていた時期に書きとめておいたものだそうです。
彼が幼少の頃に肌に触れ目にした、空や、雪や、人や、馬は、作品のベースとなっており、この作品からもそれが伝わってきます。
そして、
多一さんと重なる人物をこの作品の中に探そうとすれば、きっとそれは「ひろしさん」なのだろうと思います。
多一さんの作品は、小さく弱いものに共振し、添ったものが多いのです。
しかし、当時の私は、この作品を心地よく読むことができませんでした。
多一さんが、「ひろしさん」と重なるように感じはしても、作品の中には、「ひろし」から成人し、大人になり社会人となった「多一さん」の視線も混ざり込んでいるようで、それが気になったのでした。
読書会終了数日後、気になった部分を文章にしてみました。
それを「いっぽいっぽ通信」に書きました。
それが以下の文章です。
多一さんが、「ひろしさん」と重なるように感じはしても、作品の中には、「ひろし」から成人し、大人になり、社会人となった「多一」の視線も存在します。
その視線によって「父」が描かれ、「村田さん」が描かれています。
彼らは作品の中で、生き生きとした輪郭をもって描かれ、人格が与えられています。
が、母親の「みどりさん」は、彼らに比べると存在感が薄いのです。
このアンバランスに加え、その頃(若く男盛りだった頃の)多一さんが持っていたであろう「男の視点」が、作品に反映し、私に微妙な不快感をもたらしたのでしょう。力自慢の父
馬思いの父
良い人柄
導く父
裁く父
不器用な父
作品はこのように、一気に流れていって、それを邪魔する人は登場しません。
「村田さん」は、男と男の友情を担って登場しており、
みどりさんは見つめ、見守る母、信じて委ねる妻として登場しています。
みどりさんがしたことは、ひろしさんの傷の手当て。
まさしく「救対」としての役どころ。
「今の日本が失ったものが描かれている」というようなありがちな感想を引き出してしまいそうなところが、物足りなく、危うささえ感じてしまいます。
多一氏にも届けられる通信に、私はこんなことを書いたのです。
もちろん、これは互いの信頼感があったればこその行為です。
当時の通信のテーマは、「フェミニズム」でした。
それの発端ともなった学生運動に対しても、強く興味を抱いていた時期でした。
熱気を帯びたこの活動の中で、女の役割はもっぱら、炊き出しのおにぎり作りや、ケガした人を手当てする「救護対策」・・・・略して「救対」だったのです。
ひろしさんの手当てをするためだけに登場したかのような「みどりさん」から私は、「救対」のイメージを持ってしまったのでした。
前述したように、私が、課題図書に対してのそのような思いを綴ったのは、読書会の後のことです。
読書会当日、多一さんが、参加者に問いかけたのは、また、別のことでした。
やむを得ない暴力ってあるのか?
多一さんが問いかけたのは、
やむを得ない暴力をあなたは認めますか?
ということ。
「父」が、馬に対して行った「しつけ」「調教」を、あなたは認めますか?
ということでした。
正しい暴力って存在するのか??
という問いかけでした。
思いがけない質問に、答えの用意もない私でした。
今でこそ、教育現場での体罰は厳禁とされ、厳しい視線が注がれるようになりましたが、
言葉でわからなければ、身体でわからせるというような考え方や、動物に言葉は通じないのだから、ムチによる調教は当たり前という考え方は、長らく社会で生きておりました。
教育と暴力は、対極にあるのではなく、近い距離にありました。
きっと今だって・・・。
現に、「しつけ」という名の虐待のニュースは後を絶ちません。
「暴力」というものを、細かく、緻密に解釈すれば、
養育するものとされるものの間には、絶対的な力の差があり、そこで行われる「威圧」は暴力に匹敵するという考え方もあります。
また、大きなレベルでみれば、「戦争」は暴力の最たるものです。
『雪がふる』のお話の中に現れた「鞭をふるう」という暴力は、美談風のストーリーの中で、見過ごされがちです。
さあ、どうだ⁉️
と多一さんは問いました。
そして、ある馬の話へと移ってゆきました。
その名は『ホシコ』。
- 作者:加藤 多一
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
『ホシコ』誕生の話は次回にね!