ひと目ひと目編んでみれば・・・

 昨年末、図書館も年末の閉館間際というというタイミングで駆け込んだ私。
とりあえずリクエストだけ済ませたくお願いした本が、『編み物ざむらい』(横山起也 著)でした。

 新聞で本の存在を知るや、「読みたい!」と思い、先の行動となりました。

 その本が届きましたので、読みかけの『極夜行前』をしばし横に置き、読み始め、翌日読み終わりました。
 そのようにスルスルと読むことのできるエンターテインメント性の強い作品でありました。
「正しくあること」について考えさせられ、また、「影との統合」というテーマもありました。

 本に関する記述は、これにとどめておくことにいたします。

 今記事に残したいのは、本作そのものよりも、読後すぐに調べた著者である横山起也氏のプロフィールや、彼の主張についてです。

編み物作家でありながら、文筆家でもあるという横山氏。
どんな方だろう?
ネット検索にかけて得た情報が、興味深いものでした。
gendai.media

ここから先の記述は、こちらの情報をもとに、お伝えするものです。

女の子に生まれなかった

 横山氏が生まれ育った家庭は、祖母も、母も編み物の先生という環境でした。
この家業を、次の世代に引き継ぎたい思いを持っていたお母様は、男の子として生まれた起也君に、
「どうして女の子に生まれなかったの?」
という言葉をもらしたそうです。
当時3才だった起也氏は、その言葉を受け、涙を流したのでした。
編み物と男子は、接点を持たない!
当たり前に、そう思われていた時代だったのですね。

 実際起也さんは、青年期まで編み物とは無縁で暮らしました。

その頃の私にとって、編み物は「女の人がするもの」であり、その考えをうちやぶってまでやろうとはしなかったのである。

 母親から、新しい編み方を試してほしいと頼まれたことをきっかけに、これを手がけた起也青年は、編むことに興味を覚え始めました。
大学生時代の頃のこと。
起也青年は、学食の隅で編み針を動かすようになります。
「男なのに・・・」という意識は存分に残っており、片隅で密やかに、声をかけられれば赤面しつつ針を動かしたそうです。

 そんな横山氏は、現在「編み物」で社会に関わっておられます。
NPO「LIFE KNIT」の代表となり、編み物を教えることはもとより、福島県南相馬をはじめとする被災地で編み物による支援活動や、トークショーやワークショップを行ったりしていらっしゃいます。

ジャエンダーバイアス

 時代は変わり「編み物男子」の存在は珍しくはなくなったこの頃ですが、

「編み物は女性の趣味であり仕事である」
という、いわゆる「ジェンダーバイアス」は根強く残っていると横山氏は指摘します。
ジェンダーバイアスとは、「男らしさ」「女らしさ」などの 男女の役割に関する固定的な観念や、それに基づく差別・偏見・行動などのこと)

 実際に実験もしてみたそうです。
色々な場所に出かけていき、編み物を始め、周りの反応を確かめてみるというものです。
茶店、カフェ、公園、駅、バー、ホテルのロビーなどで・・・・・とてもユニークな試みですね。

どこでも、私が編み物をはじめると、まず空気感がかわる。
駅で編んでいたときは、他のベンチはすべて埋まっているのに、私のならびから誰もいなくなってしまったこともあった。

公園で編みはじめたら、子供連れの母親たちがみんな帰ってしまったこともある。
もちろん、誰かに喋りかけられることなどほとんどない。


 この実験により、氏は、周りの反応を知るばかりでなく、自身の内面をも知ることになります。
何故か生じてくる「気おくれ」のような気持ち。
払拭しきれないジェンダーバイアスが、自身にも根付いていたのです。

実験を続けるうちに、その居心地の悪さの度合いが場の影響を受けることにも気づくのでした。

さまざまな場で編んだ結果、私はあることに気づいていた。
編む場所によって感じる「編みにくさ」の度合いが違うのである。
簡単に言えば、駅やホテルのロビーなど、公共性の高いところではその度合いがとても高かった。
一方、大学の学食や最近できたカフェなどはその程度が軽いような気がした。
どことなしに編みやすいのだ。

編み心地の良い場所がある!!
このような感覚を大切にし、そこに焦点を当て、探ることを積み重ねていったのでしょう。そうするうちに、氏につきまとった「気おくれ感」(ジェンダーバイアス)は霧散していったということです。
それは

私のどこかに通っていなかった血が流れはじめた。

このような感覚だったと書かれています。

以来、私はどこで編んでも引け目に感ずることはない。
この体験は私にとって大きく、この後「社会におしつけられた思い込みは、条件がそろえば簡単に解体できるのではないか」と考えるにいたり、その後、ジェンダーバイアスを解体するイベントを開催するようになった。

漁師と編み物の関係

 また、視野を広げ文化や歴史を俯瞰すれば、おやおや?!
編み物と男性を繋ぐ接点は、しっかりとあるではありませんか。
船乗りたちの「結び」の技術という表題で横山氏は次の記述を進めています。 

たしかに・・・。
私の住む町は農業と共に漁業が盛んです。
家業を継ぐ男児は高校を卒業すると魚業者を育成する専門学校に入学して様々な技術を学びます。
縄や網を結ぶ技術もその一つ。
彼らの卒業製作(のようなもの)を見せてもらったことがありますが、様々な「結び」をきちんと並べて貼り付けて、額に入れたものでした。

漁網の修理(繕い)などもできなければなりませんよね。


さらにページを進めると・・・・

ええ??!!お侍さんも???

さらに、そのジェンダーバイアスをひっくり返す存在が、江戸時代の末期、いわゆる幕末に存在した「編み物ざむらい」たちである。
驚くべきことに、あの日本の男性像の代表のような「侍」たちが編み物をしていたと記す資料は確かに存在する(藤本昌義『日本メリヤス史 上巻』東京莫大小同業組合 第8章に詳しい)。
「編み物ざむらい」たちは、襦袢や股引きなどさまざまなものを編んでいたと資料にはあるが、その中で特筆すべきは軍用の手袋、つまり軍手である。

 この編み物ざむらいの存在が、私が手元に寄せた本『編み物ざむらい』の誕生につながったのですね。

それにしても・・・編むばかりでなく書き手としても、活動家としても素晴らしい志と才能をお持ちの横山起也という方・・・。

笑顔の素敵な方ですね。




 *   *   *

「なんで女の子に生まれてこなかったのよ!」と叱られ泣いた私の現在(横山 起也) @gendai_biz
の横のキノコたちの存在が気になった方は
「編みキノコ」で検索して下さいませ。


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