見つけてしまった。

 おとといの出来事・・・残しておこうと思います。

見つけてしまった

 始まりは見つけてしまったこと。
それはおとといの、児童下校見送りのときのこと。
一年生が育てている朝顔の鉢が、学校の玄関前に並べであります。
その置き場のすみっこに、何やら茶色く小さなかたまりが見えました。
何かしら?
と近づくとそれは雀の雛でした。

真上に雀の巣があるのです。
以前もそこから落ちた雛がいました。その時の雛は、毛も栄えてない丸裸の姿で、既に生きてはいませんでした。
敷地の植え込みの下に埋めてやりました。
しかし、昨日の雛は生きていました。
まだ小さな身体でしたが、羽も生えています。

拾い上げてしまった

 思わず手を伸ばし拾い上げてしまいました。
抵抗もせずに私の手のひらに収まった雛は、ほのかに温かく、小さく動いた細い足が、手のひらを優しく引っ掻きました。
このように落ちた雛に親鳥は餌を与えるのだろうか?
仮に与えたとして、この子を巣へ戻すことはできないのです。
硬いフロアに置き去りにすればすぐにカラスが狙うでしょう。
後先考えず手が出た私でしたが、このような後付けの理由により自分を納得させたのでした。

手のひらに雛を包み込んだまま、職員室に戻りました。
担任のH先生が、缶の入れ物を下さったのでティッシュを敷いてその中に雛を移しました。
教頭や、事務職員さん、たまたま学校を訪れていた教材の業者さんが集ってきました。

ひとしきり何を食べさせたら良いの?と話を交わした後、
業者のお兄さんが、
「いつか聞いた話だけど」
と声をあげました。
「雀を勝手に飼うのは、犯罪になると思うよ。」
と言うのです。
そしてすかさずスマホで調べてくれました。
「ほらほらそうだ。」
「勝手に雀を飼うと懲役ホニャララ~~罰金ホニャララ~~・・」

そうなのですか?!

教頭は、
「役場に問い合わせてみたらどうだろう。」
と言い、それを聞いた事務員さんがこれまたすぐに番号を調べて教えてくれました。

電話に出た職員に事情を話したところ、
「返答は後から折り返します。」
とのお返事、一旦電話を切りました。

情が湧いてしまった


缶の中では、雛鳥がチイチイとひっきりなしに鳴き、刺激を感じると親鳥の帰巣かと思うのか、大きな口を開けて首を伸ばすのです。
その口に入れてやるものは何もありません。
「ピイコちゃん。お腹すいたのかあい。」
と私。
「おお、既に情が移ってる!」
と数人のギャラリー。
退勤時間となったので、私は缶を抱えて帰路につきました。
何か食べさせてやりたい。
手元に置くことはおそらく叶わないでしょう。
それまでに、いくらかの餌を与えること位は許されるであろう。
そう思うのでした。
数分歩けばたどり着く我が家です。
子どもたちの姿が消えて早くも草ぼうぼうとなった旧小学校のグランドを歩き、手頃な羽虫を捕獲しようと試みましたが上手くいきません。
他の荷物も抱えながらの捕獲は難しい。
結局家の庭までやってきました。
庭のテーブルに荷物と缶を置き、羽虫を探すも見当たらず小さなバッタがおりましたが、手を伸ばす前にピタン!と跳ねて姿をくらましてしまいます。

そこで目に入ったのが、ワラジ虫。
そいつなら、敷いてあるレンガの下に見つかります。
ワラジ虫…食べるのか?
大きな口を目一杯開けて餌を要求したそのタイミングでワラジ虫を入れてやりました。
食べました。
もう一匹。
ちょうど蟻が死んだワラジ虫を運んでいました。
そいつを強奪。
ほれ食べろ!
食べた食べた。
もっとやりたい、そんな思いに駆られて縁石ブロックを除けて、ワラジをつかむ。
しかし、そうしながら私は思うのです。
「この虫だって生きている。」
「一生懸命生きている。」

さよならピイコ

 役場から折り返しの電話がありました。
案の上の答えです。
雀は駆除対象ではないが、保護対象でもないので、自然にかえすのが適切だと思います。
役場まで運んでくれれば、なるべく適切な場所へ放します。

そういう答えでした。
だろうね。
車15分も走らせて雀一匹を運び、手を煩わすこともないので、私がそのようにいたします。
と答え、礼を述べ電話を切りました。

再び箱を持ち、旧小学校の中庭まで戻りました。
少しながら餌を食べたからでしょうか?
今までじっとしていた雛は、糞を落として、小さな羽を羽ばたかせ箱から出たがるのでした。
でもその羽は、飛翔するにはまだ小さく弱いと感じました。


カラスに見つからないような場所へ放すと、チイチイ鳴きながらトコトコとあるき出しました。


自分で餌を見つけられるだろうか?きっと無理だろうな。
まだまだ、母鳥の嘴から餌をもらうのであろう、まだ幼い口の形の雛鳥なのです。
「さよなら」
涙が出そうになりながら、そこを離れました。
チイチイ
チイチイ

チイチイ
離れても雛の声が追いかけてきます。
チイチイ
チイチイ…。

声の届かない所まできて、少し気持ちが楽になりました。
はてなブロガーdebtonnさんならどうしたかな?
そんな事を考えながら家に戻りました。

後ろ髪ちょい引かれて

 さて翌日。
例の中庭の横を通りながらの出勤。
あの子はどうしただろう?
まだ鳴いているのかな?
足を一二歩中庭へ入れかけました。
しかしすぐにやめて軌道を戻しました。
仮にまだ生きていて、親を求めて鳴いていたとしたら、私の心は乱れます。
死んだ姿を見ても心痛みます。
そんな可能性のある庭に入るべきではありません。


しかし勤務後、結局私はその庭に足を踏み入れました。

くまなく探す気持ちはありませんでした。
それでもその中をくるりと歩いてみたのです。
ピイコの痕跡はどこにもありませんでした。
ピイコさよなら。
これで良いのだ。
そう思いながら帰宅しました。

後記

 雀の飼育に関する情報です。

スズメに限らず、鳥獣および鳥類の卵を捕獲・採取・損傷することは、『鳥獣保護法第8条』で禁じています。もし、違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

keiji-pro.com
私の行為は「捕獲」にはあたらないのでは?
と思いますが、弱った雛を保護することも、捕獲の範疇に入るそうです。
ただし、届け出をして一時的に飼育することは許されているそうで、その際の飼育方法などの情報も同時にネット内で知ることができました。

「ええ??」
「私早まった??」
という気持ちにはなりましたが、ただ餌やりをすれば良いわけではありません。
特に雛の場合、餌の採り方など本来親鳥によって仕込まれる野性の知識も人間によって授けてやらねばならないのです。

となるとそもそも不可能なことだと思います。


見てしまい、手の中でぬくもりを感じてしまったために湧いてしまった情でしたが、この雀の災難は、自然の中で生きる動物の運命だったのだと今は納得しています。