嘘みたいな本当の話

 ウフフ、このタイトルはブログ友達のタイトルを真似っこしたものです。
彼のタイトルは、たぶん「本当の話」という嘘っぱちだろうな!
限定公開の記事なので、リンクは貼りません。

手に取った一冊の本

 4月から始まった新設校、新校舎での勤務も、数ヶ月を終え夏休み目前です。
新校舎…そりゃ気持ち良いものですよ。
明るい壁。広い廊下。ホテル並みのトイレ。
でもね、旧学校にあったような木に囲まれ起伏のある中庭はここにはありません。
身近に見た雑草たちも縁遠い存在となりました。
バッタを追った草むらも敷地の向こうの立入禁止区域に見るばかり。
これにはちょっと淋しさを感じます。

 図書室も校舎の一等地に設けられました。明るいホールに並んだテーブルの曲線も目に柔らかく、感じの良い一画です。

 さて、その本棚に目をやると、大慌てで行った年度末の引っ越しのままの状態で、分類、分別が中途半端なのでした。
もちろん、でたらめなわけではありませんよ。ただ、まだまだ手を入れなくてはならない状態なのです。

何でここにこの本が?というものがあっちにも、こっちにも・・。
シリーズ本が、あちこちの棚にバラけて収められていたり。
気になりました。
そこで隙間時間を使って整理を始めたのです。
もちろん、図書担当職員の許可を得た上でね。
忙しい業務が続き、なかなか手が回らなかったという職員さんは、私の申し出を歓迎して下さいました。
5分10分という僅かな時間も使いながら数冊ずつ整理していきました。
そんな作業の途中、
「ん?」
と頭をひねることになる1冊に出くわしました。

タイトルは、『兵士になったクマ』
分類は 「歴史」「土地の様子」を示す2類の表示。
「え?これって物語ではないの?」

表紙には弾薬を持って二足歩行するクマの絵が。
しかし、その右側には、大きなクマをなでる兵士の写真も添えられています。
クマの右手は兵士の腕をがっちりとつかんでいます。

「史実を元にした創作物なのだろうか?」
興味を持った私は、その本を持ち帰りました。
図書館で借りた別の書物も手元にあるのですが、それに先んじてページを開いたのです。

ヴォイテク

 私の先入観は、クマまで戦場に駆り出すなんて!
というものでした。
しかし…クマを?
クマって役に立つのか?
人の言うことを聞くのか?
という疑問も湧くのでした。
本書9ページ目の記述です。

クマはびっくりして、尻もちをつき、前足で両目をおおって、いないふりをしました。そうやってじっとしていると、やがて、飼い主の声が聞こえました。

(強調の傍点をアンダーラインで代用して引用しました。)

良からぬ行動をしたクマが、叱られる予感に怖気づき取った行動です。
実はこれと同じ行為をした児童を知っております。
彼は、かくれんぼで見つかりそうになると、とっさに手で自分の目を覆ったものです。
それで隠れたつもりになる。
担任は、
「そうやったって君の姿は見えているんだよ?」
と笑いました。

人間の子どものような仕草をするクマ、これも現実のことだったのでしょうか?
この書物にはどの程度の脚色が織り込まれているのでしょう?
気になるところです。
ただ、「クマの兵士」が存在したことは確かなことなのです。

 時は第二次世界大戦の頃。
ポーランドは、ソ連とドイツに侵攻され分割されておりました。
しかし、1941年にドイツがソ連との間で交わした条約を破棄、ソ連に宣戦したのです。
ソ連はドイツと戦う連合国(イギリス・フランス・アメリカetc.)側に付き、捕虜として抑留していたポーランド人を開放。
ポーランド民もドイツに対抗するべく、戦いに参加させられることになります。
しかし、アンデルス将軍が指揮するポーランド軍は、ソ連指揮下で戦うことを厭い、中東でイギリス軍と合流することを選びました。
 
 彼らポーランド第二軍隊は、中東の広範囲で軍事活動に従事することになりました。
一頭の子グマに出会ったのはその時です。
みなしごの子グマを見つけて拾い上げたのは、一人のイラン人の少年でしたが、その少年が袋に入れて持ち運んでいたクマの可愛らしい姿に心奪われた兵士たちは、いくらかの物資を少年にやり、子グマを手に入れたのでした。
子グマはヴォイテク(笑う戦士の意味を持つ)と名付けられました。
ヴォイテクは、ウオッカの空き瓶でミルクを飲み、命を繋ぐことになるのです。
 兵士たちはヴォイテクを、戦争の役立ちにする気持ちなど持っておりませんでした。
ただただ愛くるしいその姿に慰められ、そばに置き、可愛がりたかったのです。
しかし時は戦時下、物資輸送な活動が主なようですが、場所は戦場なのです。
役に立つどころか、いたずらはするし、大事な食料や水も与えなければならない動物を宿営地にいつまでも置いておけるものでしょうか?

しかし、ヴォイテクはそこに留まり続けました。
何と!!!新兵として正式にポーランド軍に登録されることにもなるのです。
何故?
それはこの本を読んで見るも良し、またこちらの動画を見るも良し!です。
www.youtube.com

ビールの好きなクマ。
タバコを好むクマ。
自らの意志で兵士たちの任務を手伝い、弾薬の箱の積み下ろしを行ったクマ。
彼は熊でありながら、人の世話と愛情の元で育った「人間」のような存在だったのでしょう。
『兵士になったクマ』は、
「嘘のような本当の話」なのでした。

 
 これまでも、テレビなどで紹介されてきたということなので、ご存知の方もおられるかもしれませんね。

 今記事で紹介した動画の発信者、語り部シープさんは、様々な人物について調べ上げ紹介しておられます。その動画に「熊」を登場させたということは、やはりヴォイテクは人間に近い存在として受け止められたということなのでしょう。